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「1枚のペン画」

 まもなく終戦記念日がやってきます。恥ずかしながら、日頃はほとんど気に


留めることなく過ごして

きましたが、今年はその日、8月15日にコンサートを予定していることもあり、いつもとは違う心境

で迎えることになりそうです。

 実は私の叔父(父の兄)が終戦の直前、フィリピンで戦死をしています。もちろん、直接会う事は無かったのですが、子供の頃より祖母から叔父の事は幾度となく聞かされ、何よりも深く印象に残ってい

るのは居間に遺影とともに飾られていた1枚のペン画です。それは、私が小学校の上級生になるまで、

写真だと信じ込んでいたいた程、精密に描かれた戦闘機の絵でした。大学に進み、実家から離れて住むようになり、いつしかその絵の存在も忘れていたのですが、或る時、母にその絵の存在を尋ねたところ

、祖母が無くなる直前、靖国神社に奉納したとのことでした。その後、東京で就職し、何時かは訪れて

みようと思いながら、すっかり心の中から抜け落ちていました。

 今回、様々な偶然が重なり、この特別な日にコンサートを開く事になり、ふさわしいプログラムを考えながら、ふと、この絵の存在を思い出しました。早速、靖国神社に問い合わせたところ、同じように奉納された数万点の遺品の中で、直ぐにこの絵の存在を確認することができました。

 そして11日、約半世紀振りに叔父の絵と対面することが出来ました。イメージの中にあった存在より小ぶりでしたが、幼い頃、見上げるようにしてこの絵に見入っていた記憶が蘇えると共に、沢山いる孫の中から殊のほか私をかわいがってくれた祖母の姿を思い出しました。小さい頃から絵を描く事が大好きで美大に進んだ私の事を早世した叔父にそのイメージを重ねていたのでしょう。

 厳しかった祖父に「商売人に絵は必要ない」と言われ、隠れるようにして灯火管制の中、僅かな灯り

を頼りに書き上げた絵を残して出征した叔父の事を考えると、自分が何と幸せな環境にいるのか改めて

考えさせられます。そして、正に今この時、叔父と同じような思いでいる若い人たちが世界中にいることも忘れてはならない思います。

 8月15日のコンサート、何か特別なものになるような気がします。




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